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木祖村での酒造り
湯川酒造店の酒造りは、自らのアイデンティティでもある「木祖村」の立地から得られる恵みと、造り手の感性を最大限に活かしています。自分たちが心からおいしいと思える酒を醸し続けることで、木祖村の未来を切り拓くとともに、唯一無二の味を追求していきます。
標高が高く、星に近い酒蔵
木祖村における醸造環境には、昔も今も変えることのできないいくつかの特徴があります。標高が高く、寒く、軟水であることです。
標高936mでは、沸点は約96℃です。極寒期は真冬日が続き、マイナス17℃まで冷え込むこともあります。そして水の硬度は約52mg/Lです。
決して酒造りをしやすい環境とは言い切れませんが、私たちはできるだけ自然のままの条件を受け入れて酒造りを行っています。
酒造りでもっとも重要な工程のひとつが「蒸米」です。蒸気の温度が96℃までしか上がらず、ここに寒さが加わることで、蒸米の水分量が多くやわらかく仕上がる傾向となります。
蒸米の良し悪しは米麹の出来(酵素力価バランス)、酒母の生育(発酵力)、醪の発酵経過などの各工程に影響を及ぼし、香気成分やアミノ酸、有機酸組成など、酒の香りや味わいに大きく複雑に関わります。
そして軟水であることは、酵母の栄養となるミネラルが少なく、加えて寒いことで発酵が緩慢になる傾向があります。
木祖村で醸す意義を追求してきた私たちは、造り手としてこれらの自然環境を真正面から受け止め、1本1本の醪に真摯に向き合い、そのうえでおいしい酒に仕上げるために選択できることは何かを考えています。
独自の蒸米の方法を構築したり、生酛や山廃の自然乳酸菌を活用する手法で酵母の発酵力を高めたり、仕込配合や仕込温度の調整によって糖化と発酵のバランスを整えながら、木祖村の環境に最適化した独自の技術を積み上げ、進化し続けています。
豊富な水と、各地からの酒米と
木祖村は、木曽川源流の里として知られます。木祖村の最高峰、鉢盛山(2447m)頂上直下から流出するワサビ沢の最上流部が木曽川の源頭です。また木祖村を囲む山々からは数多くの沢が木曽川へと流れ込みます。この木曽川源流の水を酒蔵の井戸で汲み上げて仕込み水にしています。
水が豊かな一方で、約9割が森林地帯という耕作地の少ない木曽谷では、その昔、人々には木の年貢が課され、米が支給されました。伊勢神宮の式年遷宮や江戸城の築城に使われるほど良質な木材を流通させることで、木曽谷には多くの米がもたらされ、酒造りにも利用されたと考えられています。
米がとれない地域だからこそ、私たちは広くご縁をいただいて、長野県産のひとごこち・美山錦・金紋錦・山恵錦のほか、兵庫県東条産山田錦・愛山、岡山県赤磐雄町米など、全国の名だたる産地の酒造好適米を使わせていただき、米のポテンシャルを最大限に引き出しながら、大切に醸しています。
木曽川源流の豊かな水を使い、米のポテンシャルを最大限に引き出しながら、ここだからできる酒造りを続けています。
木祖村ならではの生酛仕込
私たちは木祖村で醸す意義を追求するなかで、自然乳酸菌を最大限に活用する「生酛仕込」にたどり着きました。
蔵内に漂う自然乳酸菌を活用するわけですから、木祖村の空気をも酒造りに活かすことになります。また一部の商品では「酵母無添加生酛仕込」を行っています。
生酛仕込は歴史のある手法ですが、微生物学や化学による酒造りの研究が進むにつれ、発酵力の強い清酒酵母を純粋に育成するための素晴らしい技術であることがわかってきています。
前述したとおり、湯川酒造店では発酵が緩慢になりやすい自然条件がそろっていますので、その条件を強みに転換するために、生酛仕込やそこから発展した独自の考え方が有効になっています。
谷間地ならではの自然流下方式
木曽川の刻んだ谷あいの地にある私たちの酒蔵では、この地形もまた酒造りに積極的に活かすべきものと考えます。傾斜地に建つ酒蔵内では、酒の移送にポンプを使用しないグラヴィティ・フローが可能で、 槽場 と 詰場 に高低差があり、しぼった酒はポンプを介さずに瓶詰めを行うことができます。
酒の熟成にとって、酸素・温度・紫外線がその品質に大きな影響を及ぼす三大要素となりますが、酒をしぼってから瓶詰めするまでの工程数を最小限かつ最短にする工夫と、グラヴィティ・フローで極力酸素との接触を減らすことで、瓶詰め後の酒の熟成品質は格段に向上しています。
環境に配慮した貯蔵熟成
日本酒は、製造・貯蔵・流通・販売・提供のいたるところで冷蔵が推奨されることが多くなっています。そこで私たちは、貯蔵環境においても木祖村の立地や自然条件を活用できるのではないかと思い至り、2023年9月に水冷式低温貯蔵庫を完成させました。
生酛仕込への取り組みやグラヴィティ・フローの活用により、私たちが醸す酒は必ずしも冷蔵貯蔵が望ましいものばかりではなくなったことも、水冷式低温貯蔵庫を設置する後押しとなりました。
酒蔵内でも遮熱効果が高くタンク貯蔵庫として使用していた場所の貯蔵タンクをすべて撤廃したうえで断熱と換気を強化。さらに壁面に配管をめぐらせて井戸水を通し、これを冷熱源にして室温を低下させる仕組みで、夏季でも貯蔵庫内を15~18℃程度に維持することを目指しています。
高地の木祖村でも夏季は最高気温が35℃近くまで上がるものの、日平均気温は23℃程度。標高が高く冷涼な気候である木祖村だからこそ、自然エネルギーを活用した酒の貯蔵環境を実現することができるのです。